宮坂 亨 わが写真、わが思い

1)時代背景と私がたどった道

終戦直後の物資欠乏、食糧難で食うのがやっとの時代に学生生活を過ごした私にとってカメラなど高嶺の花、高級機キャノン・ニコンは大学出初任給の10倍で夢のまた夢、金持ちの友人の中級機を借りて撮っていた。未曾有の就職難といわれた年、やっとで入った小さな下請け企業がカメラ製作を始めることになる。このカメラが低価格の割りにはよく撮れると大当たり。これが後のヤシカで、やがて大企業に発展する。ただそこには今では考えられない厳しい労働条件下で刻苦奮励する従業員とそれに依存する経営体制があった。製造業の原点からカメラの企画、設計まで、小から大への発展期の貴重な体験をする。後に縁あってキャノンに転籍。日本のリーダーカンパニーと言われるこの会社でもカメラ新製品開発設計に参加するチャンスに恵まれた。当時敗戦のゼロからスタートした日本は工業立国を目指したがその輸出花形産業がカメラだった。その一端を担えたこと又後に私にとってライフワークに関係するカメラに関われたことは幸運であった。その後考えるところあって転職した多国籍企業IBMでは直接カメラとは関係ない技術部門ではあったが多くの海外出張を経験し、各国の風物に接し写真撮影の機会に恵まれた。その他外国の文化、暮らし方、考え方等仕事以外にも多くの学ぶことや収穫があった。

2)写真への思い・夢の実現に向って (Refcomfalm とは)

さて定年を迎え完全にフリーになった時、選択肢は幾つもあったが写真に絞りこむ。そしてわが若き日を育んでくれた故郷、自然に恵まれた信州、その自然に焦点を合わせ本格的に撮影に取り組む。
最初は横浜から信州通いをしたが、やがて蓼科高原に山荘を建て信州撮影の拠点とする。
銀座を初め地元信州等での個展、写真集の出版を通して多くの方々との交流が始まる。
そこで得られた多くの手紙、感想、評価等から自分の考えていた方向、狙いに確信と自信を深める。 自分の写真の狙いを一言で表現するのは難しいが模索を続けて、下記の造語にたどり着いた。「Refcomfalm (リフカンファーム)」。これは下記の三つの語の合成即ちRefresh+ Comfortable+Calm[リフレッシュ、さわやか(快適),やすらぎ]。自分の思いが、頂いた評価を含め一語に凝縮されたと自負している。発音‘リフカンファーム’が覚えにくいが“感”or "勘”ファームをリフ(レッシュ)或いはリフ(ト)する、即ち‘感’or "勘”の領域を磨くまたは上げると考えれば覚えやすい。
一口に‘さわやか’と言っても自分で感じるのはやさしいが、如何に見た方に感じていただけるかが問題である。その為に具体的な手段としは例えば透明感ある抜けの良いレンズ。鮮やかさを表現できるフィルム。解像力、質感に不足なきフォーマット。気象条件の選択。あれもこれもでなく場所、被写体を限定した中で、光の状況、時間の変化で最高の状態を狙う。そうかといって奇をてらわず、又あまりにポピュラーなところは避ける。
以上のようなこだわりを持ってやっているが一番大切なのはやはり自分自身の視点、センス、情感。そしてこのレベルをいかに上げていくかが課題であり、主観的でなく客観的評価が必要である。 今回、写真集「信濃路・自然きらめくとき」に寄せられた多くの評価、感想から自分の写真のあるべき姿に或る確信と指標を得たことはなによりの収穫であった。
一方、写真と音楽とのコラボレーションという新しい試みも始めている。写真から連想される日本の叙情歌をメインにしたソプラノ歌手、ピアニストとの協業であるが好評を得た。視覚聴覚双方の効果で、よりイメージが広がる気がする。今後も発展させたい。
発展期の希望に満ちていた日本に比べ、経済的には恵まれていても、何故か暗いニュースが多く心理的に沈滞ムードの昨今、多くの方々に自然のさわやかに触れ、心をリフレッシュさせたり、明るく安らぎのある豊かなひとときをすごしていただける写真、そんな思いを胸に写真活動を続けている。